インド訪問(共同研究)

インド研究訪問

デリー大学サウスキャンパス植物分子生物学部

2013年1月31日〜2月8日

 インドの首都にあるデリー大学サウスキャンパスのSanjay Kapoor博士と、2年間の共同研究予算が日本学術振興会より認められました。将来に備え植物の利用促進のため、植物遺伝子の発現機構について研究し、応用を見据えた基盤を構築することが目的です。インド訪問では、植物の非コードRNAの機能解析のためにマイクロアレイ解析を行いました。Kapoorラボでは、イネのファンクショナルゲノミクスを専門に行い、イネのストレス処理後のマイクロアレイ解析を進め、公開しており情報処理を含め高い技術水準を持っています。日本側からは、遺伝子発現の無細胞解析系を提供し、得意分野を生かした共同研究を進めます。

研究訪問詳報

研究内容

非コードRNAの機能解析(マイクロアレイ解析)

DSC01695.JPG(写真1)Department of Plant Molecular Biology, University of Delhi South Campus, Benito Juarez Road, New Delhi 110021日本学術振興会とインド科学技術部(DST)の資金サポートによる二国間共同研究のため、2月始めインドの首都デリー市内にあるデリー大学サウスキャンパス(植物分子生物学部、写真1)のカプール(Kapoor)博士の研究室を訪問しました。目的は我々が最近発見した非コードRNA(タンパク質をコードしないRNA)の機能解析のためです。このRNAはRNAポリメラーゼIII(Pol III)という酵素により合成され蓄積量がとても多く、特に根に局在しています。蓄積量の多さから、重要な働きをしていると思われますが、その機能はまだよく分かりません。しかし、Pol IIIで作られるRNAはいずれも重要なものなので、このRNAも何か重要な働きをしている違いありません。

 このRNAはAtR8 RNAと名付けられ、低酸素で発現が誘導されています(文献1)。このRNA遺伝子が破壊されている変異体がフランスの農学研究所(INRA)にあり、取り寄せて解析を行いましたが、残念ながら野生株との明確な違いは見いだすことはできませんでした。そこで、野生株と変異株のそれぞれからRNAを抽出して、マイクロアレイ解析を行うことで、AtR8遺伝子の機能解析を進めようと考えました。

マイクロアレイ解析

DSC01627.JPGアフィメトリックスのGeneChip 日本から野生株と変異株由来のRNAをはるばる持参し、デリー大学の学生にその後の実験を託しました。カプール硏では、アフィメトリックス社のマイクロアレイ装置により、これまでに600枚のGeneChipを使って実験しており、まさにエキスパートです。始めに入念にRNAのクオリティーチェックを行いました。NanoDropを用いて炭化水素の比率が高くないか確認した後、Bioanalyzerを用いて分解がおきていないかを確認しました。いずれもRNAの品質に問題がなく、胸をなで下ろしました。わざわざ出向いて、RNAが使い物にならなかったら、何しにインドまで行ったのか分かりませんから。

 日本国内ではアジレント社のマイクロアレイ解析装置に人気がありますが、世界的にはアフィメトリックス社が標準とのことでした。GeneChipは若干コストは高くつきますが、密閉されているためデータの取りこぼしがないと聞かされました。何事にも隠されたノウハウがあるので、技術力のあるラボにお願いするのが一番いいと痛感しました。

DSC01460.JPGマイクロアレイ実験の様子 実験を行ってくれたのは、大学院生のサラスワティさんです。最近学位を取って、しかも新婚です。卒業後にご主人と南インドに引っ越すそうです。とても優秀な学生さんで、確かな技術力があり、大変お世話になりました。1枚約10万円のチップを野生株と変異株に3枚ずつ、計6枚を使って実験します。大変高額ですが、快く手持ちのチップを提供して頂きました。

マイクロアレイの実験は、およそ1週間ですが、その後の解析に2ヶ月が必要です。カプール博士が自ら解析をおこなってくれることになりました。彼は、日本に留学経験があり日本語が流暢で、生活様式も日本的なところのあるちょっと変わったインド人です。休日に愛車を洗車していると、近所の人から不思議がられるそうです。インドでは、洗車は人にお願いするのが普通なのです。

DSC01631.JPGカプール博士(オフィスでの一枚)優秀な科学者で教育者です。 マイクロアレイのデータ解析が終わり次第、得られたデータを元に我々のラボで検証実験を進めることになります。そして、次年度にもう一度インドを訪問して、更に詳細な実験を進めます。近い将来、新しい知見を得られることを目指します。


(文献1)Juan Wu, Toshihiro Okada, Toru Fukushima, Takahiko Tsudzuki, Masahiro Sugiura and Yasushi Yukawa. (2012) A novel hypoxic stress-responsive long non-coding RNA transcribed by RNA polymerase III in Arabidopsis. RNA Biology, 9: 302-313. (PMID: 22336715)

その他インドで見たもの

デリー空港

DSC01426.JPGデリー空港のパスポートコントロール インドの玄関口はインディラ・ガンディー国際空港(デリー空港)です。デリー市内に近く新しいとても大きな空港です。写真は入国審査のゲートですが、壁から何やら大きな手がいくつも飛び出ています。これは、仏像のポーズや密教僧が使う印と同じものです。いにしえの文化がはるばるインドから日本にまで伝えられたことが分かります。インド感を初めに得られる場所でしょう。

 カプール博士に空港まで来るまで迎えに来てもらいましたが、早速、インドの交通事情に驚きました。クラクションを鳴らすのが普通で、ルール無視の混沌の世界です。早速、興味をそそられました。

結婚式シーズン

DSC01445.JPG新婚夫婦の乗る飾りの付いた車 訪問した2月初めはちょうど結婚式が行われるシーズンでした。きらびやかな結婚式場が市内各所にあり、一カ所におよそ500人ほどの親類縁者が集まると聞かされました。夕方に結婚式がスタートして朝まで踊り続け、終わりには花火を上げます。誰も文句を付けないところが大らかです。カプールさんの親戚の結婚式場にちょっとおじゃまして、夕食をいただきましたが、早速激辛の洗礼を受けてしまいました。しかし味はとても美味です。日本人は何を食べてもおいしく感じるので海外旅行はお得です。以前、インド人の学生を受け入れたことがありますが、日本には彼たちの口に合う食べ物がなくてとても困ったことがあります。

インディアゲート

DSC01596.JPGライトアップされた夜のインディアゲート デリー市の中心ニューデリーの更に中心にあるモニュメントです。戦死したインド兵士の慰霊碑です。周りはきれいに整備され、自由に市民が集まり憩う場所となっています。独立記念日には、盛大なパレードが行われますが、それ以外でも常に人が集まり、出店もあり夜までにぎわっています。待ち合わせ場所にもなっているそうです。


デリー大学サウスキャンパス

DSC01694.JPGデリー市内のニューデリーにほど近い文教地区に位置するデリー大学のキャンパスです。インドの優秀な研究者と学生が集います。研究内容はかなり高度で、学生もとても礼儀正しくまじめです。写真の中央に見えるのは、デリーにある赤い石でできた天然のモニュメントです。デリーにある歴史的建造物はこの石で造られていることが多くなっています。


グル・ゴビンド・シン・インドラプラスタ大学

DSC01605.JPGインドラプラスタ大学のキャンパス インドラプラスタとはデリーの昔の地名だそうです。この大学は、いわゆる公立大学で、国立のデリー大学がすでにあるので「デリー」とは名乗れず、インドラプラスタ大学となったそうです。デリー大学が名古屋大学なら、インドラプラスタ大学はちょうど名古屋市立大学みたいなものです。そういわれると親近感がわきます。セミナーをするために訪れましたが、新しくて大きな大学です。生命科学の学部長さんも以前に日本に留学していたと教えてくれました。その時はとっても寒かったといっていました。

タージ・マハル

DSC01644.JPG大理石でできたタージマハル インドの観光名所の筆頭といえば世界遺産タージ・マハルです。デリーから200km程のアグラという町にあるイスラム形式のお墓ですが、ヤムナー川を挟んでアグラ城からよく見える対岸に建立されていて幻想的でとても美しく、インドの誇りというのがよく理解できます。知り合いのインド人学生は、初めて見たとき泣いたといっていました。実は一生で一度も訪問することはないと思っていましたが、カプールさんのご厚意で連れて行っていただけました。渋滞のひどいデリーを早い時間に出てしまえば、新しくできた高速道路を通って比較的短時間に行くことができます。このデリーを含めた北インドの冬は霧が多く、その日もひどい濃霧でした。したがって純白に輝く大理石を拝むことができませんでしたが、光の加減で大理石の模様がはっきりと見え、これもなかなか趣があって良いと思いました。かつてインドは香辛料の貿易で、世界で最も裕福な国であったそうで、昔のアグラの町並みもタージマハルのような建物がたくさんあったそうです。それらは占領されていた時代に破壊されつくされてしまったそうです。つくづく、昔に戻って見てみたいと思いました。タージマハルは中に入ることもできますが、神聖な場所なので裸足です。大理石はひんやりするので足がつりました。
DSC01679.JPGインドのキングフィッシャービール 帰りは、デリー市内で渋滞に遭遇してしまいました。デリーでは市内に住み郊外に働きに出る人が多いので、朝晩に渋滞になります。人の流れが日本とは逆なのがおもしろいところです。遅めの夕食となりましたが、チキンカレーとキングフィッシャビールの味は格別でした。