開催報告(第121回)

結晶表面のうずまき模様
〜結晶が成長するしくみについて〜

講師 : 三浦 均 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・准教授 / 専門:惑星科学,結晶成長学)
日時 : 2017年06月16日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


人類と結晶の関わりの歴史は,紀元前にまで遡ります。最初は装飾品として重用され,かの有名なクレオパトラ7世は自らのエメラルド鉱山を持っていたと伝えられています。古代ギリシャの時代には結晶の成因について関心が高まり,プラトンやアリストテレスなどの偉大な哲学者たちが様々な仮説を論じました。そして,科学革命を迎えた17世紀に,近代的な結晶成長学の法則が発見されるに至ります。しかし,結晶成長の統一理論が誕生するまでには,そこからさらに300年もの歳月が必要でした。現在では,無機物からなる結晶だけでなく,タンパク質のような有機物からなる結晶の成長についても,この統一理論で説明できることがわかっています。今回のサイエンスカフェでは,古代ギリシャから現代に至るまで,人類がどのようにして結晶成長という自然現象を理解してきたのかについてご紹介しました。

内容は以下の五部構成でした。

  1. 結晶成長学前史 〜古代ギリシャから14世紀ごろまで〜
  2. 科学としての結晶成長学 〜主に17世紀の科学革命以降〜
  3. 結晶の層成長 〜結晶は一層一層大きくなる〜
  4. うずまき模様 〜結晶成長の統一理論〜
  5. タンパク質結晶の最新研究 〜宇宙での結晶成長〜
第一部と第二部では,古代ギリシャから17世紀ごろにかけて,人類が結晶の成因をどのように考えていたのかについて紹介しました。哲学者テオプラストスは,鉱物にも生命があり,生物と同じように子どもを産む能力を持っていると説きました。例えば,アシナードと呼ばれる石は,胎内にもうひとつの石をはらんでいて,その胎児が大きくなるのに三ヶ月かかる,といった考え方です。このような考え方を「汎心論」と呼び,後世の自然哲学者にも大きな影響を及ぼしました。その後,17世紀になると,力学や微積分学が創始され,科学のあり方が大きく変わります。科学革命とも称されるこの時代に,結晶成長学においても,現代に通用する重要な3つの法則が発見されました。これらの法則の中には,結晶表面に原子や分子が付着して結晶が成長するという,汎心論と比べて遥かに近代的なアイディアも含まれていました。しかしその後,結晶成長の統一理論が誕生するまでには,約300年の長い時間が必要でした。

第三部と第四部では,20世紀に入ってから,結晶成長の統一理論が完成するまでの科学者の思考を辿りました。統一理論誕生の鍵は,結晶表面において,原子や分子が「どこに」「どのように」付着するのか,という問題を,思考実験で突き詰めたことでした。思考実験とは,実際に実験をするのではなく,頭の中で行なう想像上の実験です。科学の基本原理に矛盾しないように論理を積み上げることで, 様々な仮説の妥当性を検証するのです。結晶成長学においては,この思考実験が,立方形の原子からなる単純化された「コッセル結晶模型」に対してなされました。その結果,1949年に,結晶成長の統一理論である「らせん成長機構」が提唱されました。理論上の産物であるこのモデルは,その翌年,緑柱石の結晶表面にうずまき模様が観察されたことで実証されました。その後,それ以外の結晶の表面にもうずまき模様が続々と観察されたことで,らせん成長機構は結晶成長の統一理論として確立していくことになります。当日は,結晶表面にうずまき模様が存在することを実演するため,会場に持ち込んだPC接続型マイクロスコープを使って,シリコン・カーバイド(SiC)結晶表面の六角形うずまき模様を観察しました(倍率は約200倍)。第四部の最後では,半導体結晶の品質向上やタンパク質結晶の育成のために,らせん成長を制御するという最新研究を紹介しました。

第五部では,タンパク質結晶の最新研究の一例として,私が関わっている宇宙における結晶成長の話をしました。現在の薬剤設計では,タンパク質分子の立体構造情報に基づいた効率的な創薬技術であるStructure-Based Drug Design(SBDD)が活躍しています。SBDDの鍵は,タンパク質分子の立体構造を正確に決定することであり,そのためには高品質なタンパク質結晶化技術が必要です。そこで活用されているのが,国際宇宙ステーションに搭載された日本実験棟「きぼう」です。ある特定のタンパク質は,宇宙で結晶育成させると,地上で育成させたものよりも品質が高くなることが知られていますが,そのメカニズムは良くわかっていません。結晶高品質化のメカニズムを解明するため,宇宙で成長する結晶表面のうずまき模様をリアルタイムで観察し,宇宙と地上での結晶成長の違いを明らかにするプロジェクトが進められています。

今回のサイエンスカフェでは,古代ギリシャから20世紀に至る結晶成長学の歴史を紹介しました。少し理屈っぽい話になってしまったかなと反省していますが,結晶成長の統一理論に至るまでの科学者の思考をご理解頂けたのではないかと思います。トーク中には,ヘリウムの固体や,うずまき模様の向きと結晶の光学活性に関する専門的な質問もありましたが,トーク終了後には「そのマイクロスコープはどこで買ったのですか?」という質問もありました。素人だからと遠慮せず,疑問に思われたことはどんどん発言して頂き,サイエンスカフェを楽しんで頂ければと思います。「なぜ?」「どうやって?」という疑問こそが,サイエンスの出発点なのですから。


三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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