本研究室の三浦准教授が,惑星科学に関する国際学術誌 Icarus に単著論文を発表しました。初期太陽系の主要な固体成分であった「コンドリュール」に関する,新しい理論的アプローチに関する研究成果です。
コンドリュールは,45.6 億年昔の初期太陽系において,mm サイズのケイ酸塩からなる固体物質の集合体がなんらかの加熱を受けて溶融し(メルト),表面張力で球状になったのち,急冷凝固したものだと考えられています。太陽系の始原物質(石質隕石,彗星,小惑星)に含まれており,惑星形成の謎を解くロゼッタストーンとして注目されています。コンドリュールは地球の岩石には見られない特徴的な凝固組織を持っており,それがどのような条件(加熱温度,冷却時間,など)で再現できるかについて,多くのコンドリュール再現実験によって調べられてきました。これらの再現実験や,コンドリュールの岩石学的分析から推定された再現条件を「観測的制約条件」と呼びます。従来の理論研究は,「観測的制約条件」を再現しうる天体現象を見出すことに主眼が置かれていました。ですが,観測的制約条件「そのもの」を理論的に検証する試みはほとんど行なわれていませんでした。
本論文では,コンドリュールメルトの凝固過程を数値計算するための数値モデルを提案しました。これは,多成分系コンドリュールメルトの凝固過程を理論的に再現しようとする世界初の試みであり,観測的制約条件「そのもの」を理論的に検証するための第一歩です。今後,この数値計算手法を用いてコンドリュールの凝固組織を理論的に再現し,「観測的制約条件」を理論的に検証することで,コンドリュール形成の謎の解明に貢献していきたいと考えています。
- 掲載された論文(Icarus のページへ)
この論文は,2023 年に別の雑誌に発表した以下の論文に基づいています(原著論文 56)。
- Hitoshi Miura, Quantitative phase-field model for the isothermal solidification of a stoichiometric compound in a ternary liquid, Materialia 31, 101860 (2023) [web]