低温環境適応研究 of K'sLab

名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科
木藤研究室(生体制御情報系・植物生命科学研究分野)

低温環境適応研究

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低温による花芽形成促進機構に関する研究

低温による花成促進因子の探索

低温とムギの花芽形成

 オオムギやコムギなどの冬型イネ科作物の多くは、開花結実に一定期間の低温を必要とする低温要求性植物です。低温を要求する期間は品種間で大きなばらつきがありますが、短い品種で数日、長い品種では数ヶ月ものあいだ低温に遭遇しないと花を咲かせることができません。写真は、低温環境下において春化したオオムギと低温環境には置かず温暖な環境のみで生育させたオオムギの違いを示しています。低温にあわず温暖な環境のみで育ったオオムギは日長条件が整っても花を咲かせることができずに枯れて(座止)してしまいますが、低温環境に遭遇して春化したオオムギは日長条件が整うことで花を咲かせ多くの種を付けることができます。
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シロイヌナズナにおける低温による花成促進機構(春化機構)

 シロイヌナズナでは、春化に応答しない変異株の研究から春化機構で働く因子(VRN1, VRN2, VIN3 )の遺伝子が単離されています。春化前のシロイヌナズナにはFLCと名付けられたタンパク質が発現して花成を抑制していますが、低温に遭遇して春化するとVRN1, VRN2, VIN3などのタンパク質が働きだして花芽形成を抑制している FLC の発現を止めてしまいます。この状態で、シロイヌナズナの花芽形成は抑制状態から解放されます。これが、植物生理学的に「春化」と呼ばれる状態です。春化したシロイヌナズナでは、日長条件が整えば成長点での花芽分化が誘導され花を咲かせ種を付けることができます。FRIは FLCの発現を促進するタンパク質として同定されており、VRN1, VRN2, VIN3などとは逆の働きをしています。
 ムギ類でも関連遺伝子の単離同定が進められシロイヌナズナと同様に分子モデルが提唱されていますが、詳細な点に関しては未だ不明な点が少なくありません。全貌が明らかになるには、もう少し時間がかかりそうです。
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春化を制御する遺伝子の発現パターン(推測)

 研究に使用しているオオムギは、5週間以上の低温を経験することで春化し、栄養生長から生殖生長に移行する能力を獲得します。したがって、春化したオオムギの茎頂分裂組織では遺伝子発現に何らかの変化が生じていると推測できます。春化に伴って大きく発現変動する遺伝子があれば、春化に関連している可能性が期待できます。
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HiCEP法の原理による新規候補遺伝子の探索(原理)

 HiCEP(High Coverage Expression Profiling)法は、トランスクリプトーム解析のために開発されて新技術で、DNAマイクロアレイ法と異なり、遺伝子単離が進んでいない生物種でも使用できるという利点があります。また、既知の遺伝子だけでなく、単離されていない未知遺伝子やnon-coding transcriptsも解析対象となることから、特定の組織や特別な生理条件下でのみ発現する新たな転写産物を単離同定する方法としても利用可能です。私たちは、このHiCEP法を用いて春化したオオムギの茎頂分裂組織で特異的に発現変動する新規春化関連遺伝子の単離同定を試みています。
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HiCEP法の原理による新規候補遺伝子の探索(春化関連遺伝子の探索)

 これまでに、春化に連動して発現変動する複数の遺伝子を発見しています。現在は個々の遺伝子を同定して個別に機能解析を進めている段階ですが、候補遺伝子の中にはムギ特異的な遺伝子も含まれており、春化との関連性が明らかになることを願って研究を進めています。
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