P23k 研究 of K'sLab

名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科
木藤研究室(生体制御情報系・植物生命科学研究分野)

P23k 研究

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ムギ特異的タンパク質P23kの機能解析

P23kとは

 P23k はムギ類のみに存在するタンパク質で、同じイネ科に属するトウモロコシやイネをはじめ他の植物には存在しません。したがって、 P23k はムギが進化の過程で獲得した特別な遺伝子により作られるタンパク質です。私たちは、このような種特異的なタンパク質 P23k がムギの形質にどの様に関わっているかに興味を持っています。
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P23kの発現局在

 P23k は、吸水したオオムギ種子の胚盤で顕著に発現誘導されます。左の図は in situ ハイブリダイゼーション法でP23k mRNAの局在を調べた結果で、右の図は免疫蛍光染色法でP23kタンパク質の局在を確認した結果です。いずれも胚盤(Scutellum)で顕著に発現していることが確認できます。
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胚盤の機能

 胚盤は胚乳に蓄えられたデンプンの分解産物(糖類)を幼根や幼葉に運ぶ重要な役割を担っています。よって、胚盤で顕著に発現するP23k は糖の代謝や供給に関わる仕事をしていると推測できます。
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P23k遺伝子の発現は糖に依存する

 ノーザンブロット解析で、P23k の遺伝子発現を組織別・時期別に調べています。発芽時に胚盤で発現していたP23k は胚乳の減少と共に低下していきますが、対照的に光合成能力を獲得した(すなわち糖を合成し始めた)葉で発現が上昇します。光合成能力のない根では全く発現が認められませんので、P23k 遺伝子の発現は、糖に依存していると考えられます。P23k と糖との関連を示す証拠の一つです。
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P23kの発現抑制と形態変化

 VIGS法を利用してP23k を人為的に発現抑制させた結果です。葉の非対称性や葉端の破れといった劇的な形態変化が認められます。さらに、統計学的な解析でこれらの異常形態は葉の物理的な強度の低下に起因していることがわかりました。細胞壁構成多糖類の合成に関与する遺伝子の変異体に同様の表現型が報告されていますので、 P23k も細胞壁構成多糖類の合成に関与していると推測されます。漠然と糖との関わりが示唆されていたP23kですが、この結果から糖の中でも細胞壁多糖類の合成に関与していることが予測できます。
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細胞壁多糖類合成におけるP23kの機能(推測)

 上の図はP23kの分子系統樹です。P23kはイネ科にしか存在しませんが、細胞壁構成多糖類のβ-グルカンもイネ科特異的です。しかも、P23kが高発現するムギ類は他のイネ科作物に比べてβ-グルカンの含量が高いことが知られています。現時点では推測の域を出ませんが、P23kはβ-グルカンの合成に関わっていると考えられます。β-グルカンは機能性食品の素材としての価値を持つだけでなくバイオマス資源としても有望なことから、P23kの研究は単に種特異的な一遺伝子(一タンパク質)の機能解明にとどまらず産業利用に繋がる可能性を秘めていると期待しています。
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