生物多様性コラム(第2回)

ジャコウアゲハ

(学名: Atrophaneura alcinous

2013.06.22

産卵中のジャコウアゲハ 写真はメス。和名は、雄の成虫が麝香(じゃこう、ムスク)のような匂い(成分はフェニルアセトアルデヒド)を発散していることに由来します。他のアゲハチョウに比べるとゆったりとふわふわと飛んでいますが、これは毒を持つために外敵に襲われることがないためでしょうか。

 また、毒を持つことをアピールするように、成虫も目立つ色彩をしています(これを警戒色と言います)。これにあやかろうとしてか、アゲハモドキという蛾はその姿がジャコウアゲハによく似ています。これを擬態といいますが、進化における生物の知恵でしょう。

ジャコウアゲハの幼虫 ジャコウアゲハの食草であるウマノスズクサは、アリストロキア酸(ウマノスズクサの学名 Aristolochia debilis に由来)という毒素を含んでおり、昆虫による食害から身を守っています。しかし、ジャコウアゲハはこの毒に対する耐性があり、幼虫は、ウマノスズクサを食べて成長しながら、アリストロキア酸を体内に貯めています。これがジャコウアゲハの持つ毒です。蛹の表皮にも、卵の殻にもアリストロキア酸は存在します。

 ジャコウアゲハのメスは産卵のために、ウマノスズクサを見分けなければなりません。ウマノスズクサに含まれるアリストロキア酸とセコイトールという物質を認識しているらしく、ジャコウアゲハのメスの前肢から、アリストロキア酸だけに結合するタンパク質が見つかっています。 

ウマノスズクサに生み付けられた卵 ところで、江戸時代の天保年間に刊行された『絵本百物語』という奇談集の第4巻には於菊虫(おきくむし)のことが書かれていますが、この於菊虫というのは、ジャコウアゲハの蛹につけられた別名で、志賀直哉の『暗夜行路』の中にも登場してきます。蛹の形を、後ろ手に縛られた和服の女性、お菊の容姿に見立ててのことでしょう。お菊に興味のある方は番町(播州)皿屋敷というお話を調べてみては?

(自然薯子)


参考資料

京都大学(化学生態学研究室LinkIcon
Wikipedia(ジャコウアゲハLinkIcon
絵本百物語(お菊虫LinkIcon

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