生物多様性コラム(第6回)

イチョウ

(学名:Ginkgo biloba

2014.10.25

学生会館前のイチョウ イチョウは、中国が原産地とされており、その葉の形が鴨の水掻きのある足に似ていることから中国名は鴨脚(宋音:イーチャオ)と呼ばれ、それがイチョウの語源とされる。学名のGinkgoは、別名の銀杏の誤記をリンネがそのまま採用したためといわれており、種小名のbilobaは、ラテン語による造語で、「2つの裂片 (two lobes)」の意味。葉が大きく2裂することに着目したものである。
イチョウの葉 現生としては、1科1属1種が知られるのみで、世界中に移植され、どこにでも見られるが、原産地は中国安徽省南部と浙江省北部とされており、保全状況評価ではEN(絶滅危惧)とされている。丈夫で、長命。幹は直立し、樹高30mになる。樹皮は淡灰褐色で、縦に浅く割れ目ができる。よく分岐し、萌芽力も強い。老成すると、横にでる太い枝の下側に、乳垂(ちだれ)と呼ばれる「気根」が見られることがあるが、いわゆる「根」の構造はなく、その役割は不明である。材は黄白色で柔らかく緻密なので、碁盤、将棋盤、彫刻材などに使われる他、樹脂細胞が無いので「まな板」にするのに最もよい木とされ、水分をよくはじき、耐水性に優れる他、臭いが移りにくく、抗菌性が高く、耐久性がある。弾力性があるため、包丁の刃当たりが良く、刃に優しいことに加えて、軽いので扱いやすい。
イチョウの気根(乳垂)
 雌雄異株、風媒花であるが、1kmくらい離れていても充分に受粉することができるので、たいていの雌株には秋にはギンナンがたわわに実る。裸子植物の一種であり、その名のとおり、種子は、裸である。つまり、果実のようにみえるギンナンには、果肉は存在しない。あの臭いぶよぶよした部分は、外皮であり、これを含めた全体が種子である。また、あのにおいのために、ギンナンは動物に食べられることがなく、従って自然には種がよそに運ばれることがなく、繁殖域が広がらない。ギンナン(外種皮外層を取り除いた硬い外種皮内層と薄い内種皮以下の部分)を食するのは人間のみであるが、外皮にはギンコール酸と呼ばれるアレルゲンが含まれており、触るとかぶれることがあるので、ギンナンを拾うときには注意を要する。私は、小学生のときにかぶれて学校を休んだ記憶がある。

 また、ギンナンは栄養豊富とされるが中毒を起こすことがある。ギンナンに含まれる4-O-メチルピリドキシンが、ビタミンB6の作用を妨害することにより中毒を起こすと考えられており、ギンナン中毒の症状はビタミンB6欠乏症と似る。1日に数個食べる程度では健康上問題ないが、小児ではギンナン中毒による死亡例もあるので、特に小児では食べすぎないのが無難なようである。
駐車場脇のイチョウ
 滝子キャンパス内にも植えられており、この季節(10月下旬)にはたくさんの小さなギンナンが落ちているが、取って行く人もあまりいない。においばかりが気になるやっかいものかもしれないが、初夏の新緑も、これからの秋の黄葉も美しいものである。


(自然薯子)

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