生物多様性コラム(第7回)

シロバナタンポポ

(学名:Taraxacum albidum

2015.3.26

キャンパス内に咲くシロバナタンポポ 3月20日頃からキャンパス内のあちらこちらで白い花をつけるタンポポが咲いているのを見かけるようになりました。これはシロバナタンポポと呼ばれ実は日本固有種です。

 富士通のウエブサイトにLinkIconタンポポ前線の掲載されているページがあります。そこに、愛知教育大学 教授 渡邊幹男氏の解説があります。もともと西日本にしか生育していなかったシロバナタンポポは、次第に関東、東北へと勢力を拡大しているそうで、これは地球温暖化のせいかもしれないとのことです。タンポポ前線の図を見ると、2013年の名古屋でのシロバナタンポポの開花時期は4月20日頃だと思われます。それに比べると、名古屋市立大学滝子キャンパスのシロバナタンポポは、今年はかなり早くから咲き始めていることになります。今年の春が例年以上に暖かいとも思えませんので、日当りのよい場所に生育していることが原因でしょうか。

 ここで基本的な生物学の話をしますが、一般的に生物は2倍体です。これは、細胞の中に染色体が2セット含まれているという意味です。多くの生き物は2倍体で、私たち人間も2倍体です。つまり、お父さんからもらった遺伝子1セットと、お母さんからもらった遺伝子1セットのあわせて2セットの染色体を持っているという意味です。

シロバナタンポポの蕾 しかし植物では、時々、この染色体が倍になることがあります。そうすると4倍体の植物になります。ジャガイモ、カキ等はその例です。そして、2倍体植物と4倍体植物を両親として雑種ができると3倍体になります。3倍体のような奇数の倍数性生き物は普通は子孫を作ることができません。それを利用したのが種なしスイカです。種なしスイカは、人間がコルヒチンという薬を使い、細胞分裂を邪魔して人工的に作った4倍体スイカのめしべに、普通のスイカ(2倍体)の花粉を掛け合わせてつくられたものです。しかし自然界でも、3倍体ができることがあります。バナナやLinkIconヒガンバナがそうです。食用品種のバナナは3倍体で、種ができないため、挿し木により増やされています。ヒガンバナは球根で子孫を増やします。

 ここで、話をタンポポに戻しますが、普通の日本古来の黄花タンポポは2倍体です。それに対してセイヨウタンポポは3倍体で、無融合生殖と呼ばれる単為発生により増えます。・・・と、考えられていたのですが、実はセイヨウタンポポの中には3倍体だけでなく、2倍体、4倍体も存在し、在来タンポポとの雑種が多いようです。しかし、黄花タンポポの話は、別の機会に譲りたいと思います。

シロバナタンポポの種(5倍体) さて、シロバナタンポポはというと、実は5倍体なのです。そのため、シロバナタンポポも、交配することができず、単為生殖により種を作ります。

 では、5倍体のシロバナタンポポは、他のタンポポとどのような関係にあるのでしょうか。新潟大学教授の森田龍義らのLinkIcon分子系統学的な研究により、祖先の2倍体タンポポから、最初にタイワンのタカサゴタンポポが分化し、次いで、隠岐のオキタンポポが分岐し、最後に、カンサイタンポポとカントウタンポポの各分類群及びユウバリタンポポが種分化してきたと考えられます。さらに、シロバナタンポポは、カンサイタンポポ(2倍体)を種子親とし、韓国のケイリンシロバナタンポポ(4倍体種)を花粉親とする雑種起源の可能性が高いことも示されています。

開花直後の花 さてこれで最後ですが、シロバナタンポポは、キク科タンポポ属に属します。近縁種であるカンサイタンポポ、トウカイタンポポ、カントウタンポポとは、花の色が異なるだけでなく、舌状花が少ないことも特徴のひとつです。セイヨウタンポポは総苞片が反っくり返り、ニホンタンポポは総苞片が反っくり返らないという特徴があるのですが、シロバナタンポポでは、最初は総苞片は反り返らないのですが、花の終わりには反っくり返ってきます。花期は2〜5月とされており、タンポポの中では比較的早く咲き始め、夏を過ぎると花を見ることはなくなります。

 セイヨウタンポポ(とその雑種)が勢力を拡大していると言われる今日、キャンパス内にも黄色い花をつけたタンポポはたくさん見かけますが、シロバナタンポポは、今日は5、6株が確認できるのみです。これからも20株程度は花をつけると思いますが、何れにしてもそれほど多くはありません。ニホンの固有種ですので、キャンパス内で絶滅しないように、見守っていきたいものです。


(自然薯子)

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