生物多様性とは

生物多様性の定義

世界のアリの研究標本(日本だけでも約260種が棲息します)
 最近よく耳にすることが多くなった「生物多様性」は、英語では Biological(生物の)と Diversity(多様性)を合わせて Biodiversity (またはBiological Diversity) と書きます。

 この言葉を始めに提唱したのは米ハーバード大学の昆虫学・社会生物学者であるエドワード・オズボーン・ウィルソン(E.O. Wilson) 博士 (1992) です。 ウィルソン博士は、生物多様性を以下のように定義しました。

『「生物多様性」とは、種内に含まれる遺伝的多様性から、種の多様性、属の多様性、科の多様性を経て、より高次の分類群まで、すべての階層において考慮した生物の多様性のことである。またそれは、特定の生息・生育場所の生物群集と生物の生活に影響を及ぼす物理的な条件からなる生態系の多様性も含むものである。』


 つまり生物多様性とは、地球上に多様な生物種(一説には3,000万種以上)が存在し、それらが個体から、種、生態系の各レベルにおいて、または動物、植物、微生物といた様々な階層において、互いに影響を与え合いながら生命活動を維持しているということです。ただ単に生物の種数が多いということだけではなく、多様性をあらゆる階層における相互作用でとらえるとても広い概念なのです。

生物多様性の階層性


 生物多様性維持のために生物多様性条約 (CBD) が結ばれ、1993年に発効しました(2017年現在、アメリカ合衆国を除く全国連加盟国が加盟)。生物多様性条約では、「遺伝子の多様性」 、「種の多様性」 、「生態系の多様性」という異なる階層にそれぞれ多様性があるとしています。

 個体レベルの多様性は、すなわち個体間の遺伝子レベルの多様性です。また種の多様性とは、地球上における種分化の結果です。それらの種が互いに影響しあって、様々なシステムとして存在する状態が生態系の多様性です。

生物多様性からの恩恵


 人間のレベルから見て、生態系から得る利益や恩恵のことを特に「生態系サービス」と呼ぶことがあります。この生態系サービスを詳しく見ていくと、以下の4つに分けられます。

  • 供給サービス:農作物や水といった、生態系が生産するもの
  • 調整サービス:気候や水などの調節といった、生態系プロセスの制御により得られる利益
  • 文化的サービス:精神的・文化的利益といった、生態系から得られる非物質的利益
  • 基盤サービス:栄養循環、土壌形成など、他の生態系サービスを支えるサービス


 この様に、生物多様性を維持するということは、我々の生活を豊かにするためにも欠かすことにできないことなのです。それは、他の生物にとっても然りです。

種の絶滅速度


 種の絶滅速度、つまり地球上から生物の種が消えてゆく速度は、1600年から1900年の300年間では年に0.25種、すなわち4年に1種が絶滅していました。近年になるとその速度は加速し、1975年以降では年に40000種が絶滅していると推定されています。これは、人類の活動による結果であることは間違いなく、その減少速度をできる限りゆるめることが緊急の課題です。

生物多様性の崩壊の主な要因


 それでは何故、生物の数は減ってしまったのでしょうか?生物多様性の崩壊の主な要因は、以下の5つが考えられます。

  1.生息場所の破壊
  2.外来生物の持ち込み
  3.乱獲
  4.生物間相互作用ネットワークの破壊
  5.気候変動

 生物多様性に関わる事象はとても多岐にわたり、生物多様性の維持には、単に自然保護というだけではなく、政治問題、社会問題、商業活動の制約、国際協調、貧困問題の解決、啓蒙活動などの多くの難題を含んでいます。

生物多様性研究の目的

分類標本の作製器具
 当センターでは学術の面から生物多様性保護をサポートするため、生物多様性の形成原理と維持機構の解明に焦点を絞り、科学的なアプローチで研究を進めてゆきます。その実現ためには、遺伝学、進化学、生態学、分類学、生理学、生化学、分子生物学といった科学分野を有機的に結びつけた研究が必要になります。当センターでは各分野の専門家と実験機器をそろえ、多彩な外部協力者と共に生物多様性研究を進めてまいります。

お問い合わせ

生物多様性研究センターへのご連絡はセンター長の熊澤慶伯までお寄せ下さい。電子メールは、biodiv[@]nsc.nagoya-cu.ac.jpです。