論文・報告書

様々な学外共同研究者と共に、センターが関わって出版した論文や報告書をまとめます

日本産貝類のDNAバーコーディングと系統解析


 海洋国家日本の近海には、6000種とも言われる多様な貝類が生息しています。また、その一部は食用にもなるなど、市民に馴染み深い種も含まれます。また陸域や淡水域にも1000種以上とも言われる多様な貝類が生息しています。長期目標の一つは日本産貝類全種のDNAバーコードデータベースの構築ですが、まずは東海地方の陸産、淡水産の貝を中心にDNAバーコードデータの収集・分析及び系統解析を開始しました。センター研究員の川瀬基弘博士(愛知みずほ大学准教授)が収集した貝類標本を主に用いており、研究後の標本は標本庫に預け入れられています。今後、海産種にも研究対象を広げていく予定です。
 関連して発表した論文をいくつか以下に示します。


【成果発表】
2023年
●川瀬基弘、横山悠理、横井敦史、熊澤慶伯(2023)名古屋市に棲息するCristariiniカラスガイ族(ドブガイ類)の種多様性. なごやの生物多様性 10: 125-133.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、横山悠理、山本大輔、熊澤慶伯(2023)矢作第二ダム堪水池のミナミタガイ. 矢作川研究 27: 43-48.LinkIcon論文PDF

2021年
●川瀬基弘、横山悠理、西尾和久、松原美恵子、横井敦史、熊澤慶伯(2021)名古屋市に棲息するニッポンマイマイSatsuma japonicaのCOI遺伝子からみた分子系統学的位置付け. なごやの生物多様性 8: 127-132.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、横山悠理、松原和純、市原俊、松原美恵子、横井敦史、森山明彦(2021)愛知県に棲息するキセルガイ類. なごやの生物多様性 8: 113-125.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、横山悠理、市原俊、西尾和久、尾畑功、熊澤慶伯(2021)愛知県で発見されたクチベニマイマイの系統関係. 鳳来寺山自然科学博物館館報 50: 23-29.
●川瀬基弘、横山悠理、横井敦史、熊澤慶伯(2021)愛知県名古屋市、豊橋市、山梨県北杜市で発見されたBuldowskia shadiniヤハズヌマガイ(新称). 瀬木学園紀要 18: 3-9.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、横山悠理、吉村卓也、茅原田一、熊澤慶伯(2021)岐阜県初記録の湿地性稀少種ミズコハクガイ. 瀬木学園紀要 18: 10-14.LinkIcon論文PDF

2020年
●Nasu K, Yokoyama Y, Sun Y, Suzuki-Matsubara M, Teramoto T, Moriyama A, Kawase M, and Kumazawa Y. (2020) Mitochondrial genome of Cipangopaludina japonica (Gastropoda: Viviparidae) with a tRNA gene rearrangement. Mitochondrial DNA Part B 5: 1340-1341.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、村松正雄、横山悠理、横井敦史、熊澤慶伯(2020)愛知県奥三河地域で発見された日本初記録のBuldowskia shadini. 瀬木学園紀要 17: 3-8.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、横山悠理、松原美恵子、横井敦史、森山昭彦、熊澤慶伯(2020)岐阜市に棲息するナミギセルの分布と系統関係. 瀬木学園紀要 17: 9-16.LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘、西尾和久、松原美恵子、市原俊、森山昭彦、熊澤慶伯(2020)名古屋市に棲息するオオケマイマイAegista vulgivagaのCOI遺伝子からみた分子系統学的位置付け. なごやの生物多様性 7: 31-37.LinkIcon論文PDF

2019年以前
●熊澤慶伯,松原美恵子,横山悠理,寺本匡寛,村瀬幸雄,那須健一郎,孫垚,森山昭彦,川瀬基弘(2019)名古屋市産淡水貝類のDNAバーコーディング. なごやの生物多様性 6: 1-14. LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘,西尾和久,松原美恵子,市原俊,森山昭彦,熊澤慶伯(2018)遺伝子解析に基づく中部・西日本産ナミギセルStereophaedusa japonica個体群の種内多様性と名古屋市の個体群の系統的位置づけ. なごやの生物多様性 5: 11-22. LinkIcon論文PDF
●川瀬基弘,松原美恵子,森山昭彦(2016)愛知県西三河地域から採集されたヒラマキガイ属3種:形態と遺伝子情報による解析. 陸の水 74: 43-48. 
●川瀬基弘,西尾和久,松原美恵子,森山昭彦(2016)新城市のミカワギセルの特徴とCOI遺伝子からみた分子系統関係. 鳳来寺山自然科学博物館館報 (45): 27-30. 
●川瀬基弘,西尾和久,森山昭彦,市原 俊,桜井栄一(2015)ミヤマヒダリマキマイマイ(腹足綱: ナンバンマイマイ科)種内の形態変異と分子系統. Molluscan Diversity 4(1-2): 5-13. LinkIcon貝類DNAバーコードデータベースへのリンク
●川瀬基弘、西尾和久、森山昭彦、市原俊(2014)名古屋市で発見されたビロウドマイマイ類. 名古屋の生物多様性 1:1-14. LinkIcon論文PDF

環境DNA解析による絶滅危惧種の棲息確認


 名古屋市守山区才井戸流の湧水地の水から得たDNAを用いて大量DNA解読を行うことで、名古屋市で絶滅危惧種(絶滅危惧IA類)に指定されているニホンイタチとキクガシラコウモリが才井戸流に残存することを裏付けるデータが得られました。これらの哺乳類は夜行性で目視による生息確認が難しいのですが、環境DNAの技術を用いることで継続的な生息モニタリングが可能になると考えられ、将来的にはレッドデータ作成への貢献も期待されます。以上の研究結果は、下記の原著論文として発表しました。

【成果発表】黒川景、野呂達哉、熊澤慶伯 (2023) 環境DNAを用いた才井戸流周辺の動物種の予察的分析.なごやの生物多様性 10:1-12. LinkIcon論文PDF

バッタ類のDNAバーコーディングと集団遺伝解析


 名古屋市内の41地点から採集された9種260個体のバッタ類について、ミトコンドリアDNAにコードされるCOI遺伝子の塩基配列を解読して、DNAバーコーディングを実施しました。名古屋市産のバッタ類は、中国・韓国など東アジア産の個体と極めて近い塩基配列を持つことが分かり、日本とユーラシア大陸東部の間で過去に頻繁に遺伝子流動があったことが示唆されました。それぞれの種内での遺伝的多様性を調べたところ、開発が進んだ名古屋市において生息適地が減少していると考えられるヒナバッタ、トノサマバッタ、クルマバッタなどで遺伝的多様性が比較的低いことが示されました。これらの種では個体数の変動に今後注目していく必要があると考えられます。以上の研究結果は、下記の原著論文として発表しました。

【成果発表】小汐晃平、横山悠理、戸田尚希、熊澤慶伯 (2023) 名古屋市産バッタ類のDNAバーコーディングと集団遺伝解析.なごやの生物多様性 10:13-26. LinkIcon論文PDF

ツチガエル類の集団遺伝解析


 尾張平野と岡崎平野の13地点を中心に全国から採集されたツチガエル202個体について、ミトコンドリアDNAの主要非コード領域の塩基配列を決定し、集団遺伝解析を行いました。名古屋市内で本種が唯一生息する北区の近接する2地点を含め、一宮市・江南市・扶桑町などの点在する生息地点間で大きな遺伝的分化が検出され、これらの地点に生息する個体の遺伝的多様性も概して低いことが分かりました。生息地の連続性が比較的保たれている岡崎平野と異なり、尾張平野では開発によって本種の生息地の分断が進み、遺伝子の多様性も失われていることが示されました。以上の研究結果は、下記の原著論文として発表しました。

【成果発表】寺本匡寛#、横山悠理#、熊澤慶伯、島田知彦 (2022) ミトコンドリアDNA塩基配列を用いた名古屋圏のツチガエルの遺伝的解析:近年の生息地分断と遺伝的分化度の上昇.爬虫両棲類学会報 2022(2):161-175. #共同第一著者LinkIcon雑誌サイトリンク

10周年記念誌への寄稿記事


 なごや生物多様性センター・なごや生物多様性保全活動協議会の10周年記念誌が発刊されました。その中で熊澤センター長が寄稿した記事2編が出版されています(2022年3月31日)。

ワシタカ類のDNAバーコーディングと集団遺伝解析


 タカ目やハヤブサ目の鳥類は生態系において食物連鎖の頂点に位置しますが、生息環境の変化や農薬等の化学物質による影響で世界的に生息数を減らしており、その保全に取り組む必要があリます。日本ワシタカ研究センター(尾張旭市)は、ワシタカ類の生息状況調査や保全対策の提案、疾病ワシタカ類の治療と放鳥などに取り組んでいます。同センターから提供を受けたワシタカ類のサンプルを用いて、名古屋圏のワシタカ類11種のDNAバーコードデータベースを作成するとともに、海外産個体由来のDNA塩基配列との比較を行いました。その結果、極東(日本)/欧州/北米の3地域間でのハプロタイプの分化の程度は、それぞれの種に属する個体の渡りの様式と相関が高いことが見出されました。しかし、中にはチョウゲンボウのように、海外への渡りを行う明確な記録がないにもかかわらず、日本産個体と欧州産個体の間に遺伝的分化が見られない種もありました。さらにハヤブサとオオタカについて集団遺伝解析を行ったところ、国内産オオタカの遺伝的多様性が比較的低いことがわかり、近年の個体数の減少によるボトルネック現象を反映すると思われました。以上の研究結果は、下記の原著論文として発表しました。

【成果発表】横山悠理、中島京也、陸田径典、熊澤慶伯 (2020) 名古屋周辺ワシタカ類のDNAバーコーディングと集団遺伝解析.なごやの生物多様性 7:1-14. LinkIcon論文PDF

東海地方の植物の多様性


 センター研究員の村松正雄氏を中心に、東海地方の植物の分布調査と一部DNAバーコーディングを行なっています。関連して発表した論文を以下に示します。また、環境デーなごや2018に「なごやのいろいろな植物を知ろう(名古屋市内の植物の多様性)」のタイトルで、環境デーなごや2019に「なごやのいろいろな植物を知ろう!ー帰化植物とは?ー」のタイトルで出展し、啓発活動を行いました。

【成果発表】
村松正雄 (2020) 最近消滅した名古屋の絶滅危惧植物.なごやの生物多様性 7: 65-70. LinkIcon論文PDF
村松正雄 (2019) 名古屋市東谷山北斜面の希少植物.なごやの生物多様性 6: 83-88. LinkIcon論文PDF
環境デーなごや2018LinkIcon名古屋市内の植物の多様性LinkIcon植物でしおりを作ろう
環境デーなごや2019LinkIcon帰化植物とはLinkIcon帰化植物_何が問題なのLinkIconDNAで帰化植物を同定する

生物多様性研究センターの活動紹介


 熊澤センター長が書いた生物多様性研究センターの紹介記事が、中部経済新聞の「研究現場発」コラムに掲載されました(2017年8月8日)。

LinkIcon掲載記事(PDF)(許可を得て掲載しています)

ゾウムシのDNAバーコーディング


 コクゾウムシの類は、クチ(口吻)が長いのでその形から「ゾウムシ」と呼ばれます。種々の植物に対応していろいろなゾウムシがおり、環境の豊かさの指標になります。名古屋市内だけでも100種を越えるゾウムシが見つかっています。体長数mmと小型のものが多く、よく似ていているので外見だけで種類を決めることはなかなか困難です。名古屋市を中心とした東海地方のゾウムシ類(85種、164個体)を解析した結果について、下記の原著論文を発表しました。土壌性のゾウムシ類などで、愛知県の山ごとに別種に分化している可能性が示されました。また、この研究成果を含めて、「なごやの甲虫とゾウムシの多様性」のテーマで、第5回なごや生物多様性センターまつりに出展しました(2018年10月27日)。

【成果発表】井上晶次、熊澤慶伯 (2017) 名古屋市を中心とした愛知県及び近隣県産ゾウムシ類のDNAバーコーディング.なごやの生物多様性 4:23-29. LinkIcon論文PDF
LinkIcon出展ポスターのPDF


以下は、9種類のゾウムシを分析した例です。
写真提供:井上晶次氏

名古屋のヤマトサンショウウオの遺伝的多様性


写真提供:藤谷武史氏  名古屋市では、近年の都市開発の影響で、サンショウウオ類の生息に必要な湿地が失われ、都市公園などの保護区域に少数の個体群が生き残るだけになっています。このサンショウウオを守るために市民団体等が保全活動を行なっていますが、保全戦略を立案するのに必要な科学データの取得は必ずしも十分でありませんでした。本研究では、市内の各繁殖地で発見した卵塊の一部からサンプリングし、DNA解析を行うことで、市内のヤマトサンショウウオ(カスミサンショウウオから2019年に名称変更)の遺伝的多様性を分析しました。その結果、市内で分断された小繁殖地に生息するヤマトサンショウウオの遺伝的多様性がかなり低レベルであること(個体数が減少していることを反映)、一部の繁殖地に滋賀県の個体群が移入された可能性があること、などが判明しました。

 センター研究員の藤谷武史氏が大学院博士前期課程の院生として行なった研究成果です。藤谷氏の修士論文にまとめられたほか、爬虫両棲類学会報に原著論文として出版されました(2016年5月)。また、この成果を含め「なごやのサンショウウオ。都市開発のもと生き残れるか?」のタイトルで、第3回なごや生物多様性センターまつりに出展しました(2016年10月30日)。

【成果発表】藤谷武史・能登原盛弘・熊澤慶伯 (2016) ミトコンドリアDNA塩基配列を用いた名古屋市及び周辺地域におけるカスミサンショウウオの遺伝的多様性の研究.爬虫両棲類学会報 2016(1): 1-12. LinkIcon掲載誌のURLリンク
LinkIcon出展ポスターのPDF1
LinkIcon出展ポスターのPDF2

コメツキムシのDNAバーコーディング


写真提供:大場裕一博士コメツキムシは、日本に広く存在する甲虫で、ホタルのように光る種類もあります。世界には約1万種が、日本でも約600種(その多くは日本の固有種)が知られています。一部のコメツキムシは農業害虫にもなっており、幼虫の種同定技術への期待は高いのですが、形態に基づく同定法には一定の限界がありました。多数の昆虫愛好家のご協力を得て収集した成体標本(275種、762個体)を用い、コメツキムシの分類学者(大平仁夫氏)による形態に基づく種同定の結果とDNAバーコードによる種境界の認識結果を比較しました。その結果、275種のうち177種については、形態と分子に基づく種境界が一致しました。一方、形態に基づき同定された47種は、実際には184種を包含する可能性があることを分子データは示唆しました。本研究は、日本の野外で普通に見られるコメツキムシを専門家の鑑定なしで同定できるDNAバーコードデータベースを構築したことに加え、コメツキムシの分類学上の検討課題をいくつか提示した意義があると考えます。

本研究は、名古屋大学生命農学研究科(現中部大学)の大場裕一先生LinkIconと当センターの共同研究で、この成果は2015年にPLoS ONE誌に論文発表されました。また、日本農業新聞でも記事として紹介されました(2015年3月19日付)。

【成果発表】Oba Y, Ôhira H, Murase Y, Moriyama A, Kumazawa Y (2015) DNA barcoding of Japanese click beetles (Coleoptera, Elateridae). LinkIconPLoS ONE 10(1): e0116612. doi:10.1371/journal.pone.0116612

LinkIcon日本バーコードオブライフ・イニシアチブ(日本産コメツキムシ)
LinkIconコメツキムシDNAバーコードデータベースへのリンク

東山総合公園の動植物のDNAバーコーディング


東山植物園のヤブツバキ  東山動植物園では、動植物そのもの、あるいはその生態への理解を深めていただくために様々な動植物を展示しています。展示されている動植物について、学名や生息地だけでなく、遺伝子情報も把握しておくことは、動植物園としては重要なことです。その理由の一つを挙げますと、動物園にいるゾウ、ゴリラ、ワニなどの絶滅危惧種を絶やさないためには、国内外の動物園等にいる同種(同亜種)個体と遺伝情報に基づいて適切に交配させる必要があるからです。私たちは動植物園と協力して試料を収集するとともにDNA塩基配列を調べています。近縁種が数多く保存されている動植物種では、それらの遺伝的類縁関係について明らかになってくることも期待されています。
 2010年から試料の収集と分析を始め、2015年までに102種118個体の脊椎動物でcox1遺伝子の配列決定と解析を行いました。また、221種の植物でrbcL遺伝子を、159種の植物でmatK遺伝子の配列決定と分析を行いました。現在までに以下の3点の報告書を作成しています。それらの報告書からの抜粋をポスターにして、第4回なごや生物多様性まつりで東山動植物園と共同展示を行いました。

東山公園DNAバーコードプロジェクト報告書(2013年3月)
東山植物園「ハスとスイレンのDNAバーコーディング」報告書(2015年4月)
東山動物園「DNAバーコードプロジェクト」報告書(2016年7月)
第4回なごや生物多様性センターまつり
DNAバーコーディング:東山動植物園の生きものたちのDNA多様性.名市大生物多様性研究センター・東山動植物園共同出展(2017年10月28日開催)

お問い合わせ

生物多様性研究センターへのご連絡はセンター長の熊澤慶伯までお寄せ下さい。電子メールは、biodiv[@]nsc.nagoya-cu.ac.jpです。